【スタートアップ向け知財情報】特許ライセンス契約、基本の基本(番外編)

知財情報

はじめに

特許ライセンス契約の基本的な内容を解説するシリーズ、番外編です(本編は、本記事の最後にリンクを貼っています)。

これまでは「5W2H」に沿って、特許ライセンス契約の主要な条項を解説してきましたが、もちろん契約書にはそれ以外の条項も多数あります。

本記事では、その中でも特に知っておいた方が良いと実務を通して私が感じた下記3点について解説していきます。

  • 非保証
  • 不争義務
  • 秘密保持

非保証

文字通り「保証しない」ことですが、特許権者目線で、少なくとも下記2点については保証しない方が良いです。

  1. 許諾特許の有効性
  2. 許諾特許に係る発明の実施により、第三者の特許権を侵害しないこと

①許諾特許の有効性

前提知識として、特許庁の審査を通過した後であっても、特許性を否定するような先行例が見つかった場合、特許は無効になります(特許法第123条)。

そして、そういった先行例というのは、特許庁の審査過程で引用されなかった(=見つからなかった)文献であることがほとんどです。

本題に戻って、許諾特許の有効性を保証するということは、すなわち許諾特許が無効にならないことを保証するということです。

どれだけ調査したとしても、この世に無数にある先行例(文献等)の中に、許諾特許を無効にする先行例が存在しないことを証明することは、いわゆる悪魔の証明であって、実質不可能です。

実現困難なことは保証すべきではありません。

②許諾特許に係る発明の実施により、第三者の特許権を侵害しないこと

ライセンシーの立場としては、お金を払ってライセンスを受けたのだから、許諾特許に係る発明の実施によって第三者の特許権を侵害するような事態は避けたいという思いも分からなくもないですが、特許権者(ライセンサー)としてはこれも保証すべきではありません。

ライセンシーがどのような製品・サービスを実施するかも分からないのに、この世に無数にある第三者の特許権を侵害しないことを保証することも実質不可能です。

そもそも、特許ライセンスとは、あくまでも許諾特許に係る発明の実施を認めてあげるだけ(*)なので、そこまで保証する必要は無いです。

(*専用実施権の場合は、これに加えて、他者への権利行使まで可能な権限も付与されます)

不争義務

不争義務とは、ライセンシーが許諾特許の有効性を争わない義務のことです。

上記の通り、許諾特許が無効になる可能性は否定できませんし、当のライセンシー自身が許諾特許を無効にしようと試みるかもしれません。

不争義務は、基本的に独禁法に違反しないとされています(公取委のガイドライン4 (7)参照)。

とはいえ、独禁法に絶対に違反しないとも言い切れませんので、実務的には以下のような条件にすることも多いと思われます。

  • ライセンシーが許諾特許の有効性について無効審判等で争った場合は、ライセンス契約を解約
  • 既に支払い済みの対価は返還しない
  • クロスライセンスの場合、契約自体は存続するが、「争いを起こされた側」から「争いを起こした側」へのライセンスのみ切る(=「争いを起こした側」が受けていたライセンスが無くなる)

特許権者側としては、ライセンシーとの争いを極力減らすためにも、不争義務は入れておいて損は無いかと思います。

秘密保持

秘密保持の対象としては、ライセンス契約の存在自体、及びその契約条件があります。

どこまで秘密保持の対象とするかは、それぞれの契約の背景や当事者の方針によって様々です。

個人的には、特別な事情が無い限り、特許の流通が盛んな昨今の状況を鑑み、少なくとも契約の存在と契約の相手方(当事者)については開示可能(必要に応じて可能な場合の条件も付加)としておくのが良いかと思います。

将来、許諾特許が第三者に売却される際には、誰に対してライセンス済みなのか、という情報は、特許の価値・値付けに大きく影響するため、この情報無くして特許売却の交渉は上手く行かないでしょう。

ライセンシーの立場で考えても、許諾特許が売却される際には、既に許諾特許のライセンスを受けていることは、売却先にも知っておいて欲しい情報かと思います(∵売却先から権利行使されるのを未然に防ぐため)。

なお、特出しの項目にはしませんでしたが、許諾特許に外国特許が含まれる場合には、許諾特許が売却されたとしても、ライセンシーが新たな特許権者に対して「対抗」できることを確認的に規定しておくべきしょう。

すなわち、ライセンサー(元特許権者)は、許諾特許の売却先=新たな特許権者(及びその後の転得者)に対して、ライセンシーへの許諾特許に係るライセンスを継続させる義務を課さなければならない、と契約で規定しておくのです。

日本では特許法上(第99条)、許諾特許が譲渡されたとしてもライセンシーは守られますが(これを当然対抗制度といいます)、外国特許も関係する場合には契約で規定しておくのが無難です。

最後に

「特許ライセンス契約、基本の基本」と題して、本編の3回と今回と併せて4回のシリーズで解説しましたが、如何でしたでしょうか。

特許ライセンス契約は、非常に専門的な内容の契約ですが、今回のシリーズの内容を頭の片隅にでも置いておけば、弁護士の先生との相談や相手方との条件交渉で、きっと役に立つはずです。

読者の皆様にとって少しでもお役に立てば幸いです。

本シリーズの本編は、下記リンクからお読みいただけます。