【スタートアップ向け知財情報】その特許、「分割」しなくていいですか?

知財情報

はじめに

前回、特許庁の審査を潜り抜けて特許査定が出た(特許権を取得できた)ときに、1件で満足していませんか?という話をしました。

今回もこれと似たような話で、特許査定が出た後に(特許権にするための)登録料を納付しておしまい、とすると、あとで後悔するかもしれません、という話です。

「分割出願」とは

技術者の方でも特許出願の経験がある等、特許実務を少しでも経験されたことのある方は、「分割出願」という名前を聞いたことがあるのではないでしょうか?(特許法第44条

分割出願とは、ざっくり言えば、最初の特許出願(親出願と呼びます)と異なる特許請求の範囲(=権利範囲を決める文章)で出願した別の特許出願(=分割出願)のことをいいます。

もちろん、特許請求の範囲に記載できる内容は、親出願に記載された範囲内です。また、例外はあるものの、親出願の特許出願中と特許査定が出てから30日以内であれば、いつでもできます。

分割出願の何が嬉しいの?

ここで、分割出願できて何がそんなに嬉しいの?と思われた方もいるかもしれません。

確かに親出願で、無駄の無い完璧な特許請求の範囲で権利化できていれば分割出願は不要かもしれません。

ただ、完璧な特許請求の範囲なんて実質不可能です(そもそも世の中、「完璧」なんて無いですから)。

特許請求の範囲は文章で決定されるところ、そもそも発明の内容を過不足なく、完璧に文章化することは不可能です。

以下、例を用いて説明しましょう。

具体例(分割出願していないVer)

当社は、保有する特許権Aの発明を用いた、ある製品(以下、当社製品と呼びます)の製造販売を開始しました。

その後、当社製品と酷似した(見るからに当社製品を意識したであろう)他社製品が市場に出回り始めたとしましょう。

特許権Aを保有する当社としては、他社製品を入手・分析して、特許権Aを侵害していないかを早急に確認すべきです。

さもなければ、他社製品に市場シェアを奪われてしまい、当社製品の開発投資費用の回収すら難しくなってしまうかもしれないからです。

他社製品が特許権Aを侵害しているかどうかは、他社製品が特許権Aの特許請求の範囲に記載された要件を全て満たしているか否かで判断します。

先ほど述べたように、特許請求の範囲が過不足なく完璧に記載されていれば、他社製品は特許権Aを侵害しているでしょう。

しかしながら、もし特許請求の範囲に不備があったら…例えば、当社製品には必須ではない構成Xを記載してしまっていた場合はどうでしょう。ただし、構成Xがなくても特許庁の審査をクリアできたものとします。

他社がその構成Xに目をつけて、他社製品に構成Xが含まれない場合には、特許権Aの侵害にはならず、他社製品の台頭をなす術なく見ているしか無いでしょう。

そんなことあるの?と思われる方もいると思いますが、必須でない構成が特許請求の範囲に含まれてしまっていることは、他社製品を見るまで意外と気づかなかったりするものです。

特に急いでいたり、詳細を弁理士さんにお任せにしてたりすると…(もちろん、弁理士さんに発明の内容・本質をしっかり説明し、きちんと理解して頂いていれば避けられる可能性は高まります)。

具体例(分割出願していたVer)

ではここで、特許権Aとは別に分割出願B(審査中)をしていたとしましょう。

他社製品を分析した結果、特許権Aに含まれる構成Xは不要だということが判明しています。

分割出願Bの特許請求の範囲を、構成Xを含まず、かつ、他社製品に含まれる構成だけで記載し、特許庁の審査もクリアしたとしましょう(分轄出願B→特許権B)。

この場合、特許権Bの設定登録日以降に販売された他社製品は、特許権Bの侵害ということになりますので、他社製品の市場での流通拡大を阻止することができます(※もちろん裁判所で認めてもらう必要があります)。

つまり、分割出願をしていれば、他社製品の具体的な構成を見ながら特許請求の範囲を記載できる、かもしれないということです(後出し感もあって、本当にいいの?と思われるかもしれませんが、何も問題無いです)。

ここで「かもしれない」と言ったのは、他社製品の流通や入手できた時期に分割出願Bが審査中(専門用語では「特許庁に係属中」といいます)でないといけないからです。

特許庁の審査は、早期審査制度で早めることはできますが、反対に遅らせる制度はありません。

したがって、他社製品の流通・入手前に分割出願Bの審査が終わっていた場合、さらに分割出願Cをしていないと、上記のように他社製品を見ながら特許請求の範囲を記載することはできません。

ここが難点で、分割出願も当然費用がかかりますので、分割出願で「生き長らえさせる」のは、費用対効果をも考慮しながら、本当に重要な案件に絞るのが無難です。

最後に

今回は、「分割出願」の使い方の一例を紹介しました。

分割出願は本来、ある特許出願が「発明の単一性(特許法第37条)」を満たさない2以上の発明を包含すると特許庁に判断された場合に活用するためのものです(※特許庁は、一つの特許出願につき、一つの発明しか審査しないため)。

とは言え、実際は本記事で説明したようなメリット(他社製品の具体的な構成を見ながら特許請求の範囲を記載できる)を狙って活用することも多いです。

もちろん費用もかかることですので、費用対効果を考慮すべきとは思いますが、知っておくといつか役立つ日が来るかもしれませんので、記事にしてみました。