はじめに
今回は、米国でビジネス(製品・サービス販売)を展開中、または今後展開を予定しているスタートアップの方に向けた記事です。
いきなり話が飛びますが、自社でビジネスを行う以上、他社特許権の侵害を回避すべく、他社特許の調査は重要です。
特許は国ごとに存在しますので、ビジネスを展開する国の他社特許は調査しておくのが良いでしょう。
とはいえ、英語以外で書かれた特許は読めないので、結局、米国や欧州に限られてしまうことが多いですが…
しかし、米国でビジネスを展開する場合、英語で書かれている米国特許はしっかり調査しておくべきでしょう。
そして、調査の結果、自社の製品・サービスが実施している(要は侵害している)米国特許権が見つかったとします。
このとき、社内で情報共有や対策案の検討のため、
「調査の結果、当社の製品が、競合●●社の米国特許XXXXXXXX号を侵害していることが発覚しました」
等と社内関係者にメール等で配信したことのある(あるいは、自分だったらそう送るかもしれないと思った)方はいないでしょうか?
これは非常に危険ですので、やめましょう。
米国独自の訴訟制度
米国の訴訟制度には、日本には無い、非常に重要な手続きがあります。
それは、「ディスカバリ」という証拠収集・開示手続です。
ディスカバリでは、原則、訴訟に関連する証拠を全て、相手方から入手することができます(電子メールももちろん、その対象です)。
また、証言録取(デポジション)と呼ばれる、相手方の関連証人に対する徹底した尋問(数時間に及ぶこともある)も可能です。
従って、米国で特許権侵害訴訟を起こされると、訴訟に関連する自社内の情報をほとんど全て、裁判所や相手方に開示しなければいけない、と思っておいた方が良いです。
上述したメール、これも当然、開示対象です。このメールを見た、裁判官や陪審員はどう思うでしょうか?
「被告(あなたの会社)は、特許権侵害を自分で認めている」
と思うでしょう。そうなれば、裁判で不利な判決を出される可能性は当然、高くなります。
自分が権利者側のパターンでも要注意
これは何も「自社製品が他社特許権を侵害している」パターンに限った話ではありません。
「他社製品が自社特許権を侵害している」=自分たちが権利者として攻撃側のパターンでも注意が必要です。
極端な例ですが、米国特許商標庁での審査を無事パスして米国特許権を取得できたものの、実は米国特許商標庁が把握していない公知文献(例えば、他社特許や論文)があり、
その文献が審査で引用されていた場合には、特許権が取得できなかったと社内で認識していた(「この文献が審査で引用されなくてよかった」のようなメールが残っていた)とします。
そのような状況にも関わらず、その米国特許権で他社を攻撃した場合、ディスカバリで上記メールが開示されれば、米国特許権の有効性は否定され、権利行使不能のペナルティまで課せられる可能性もあります。
※上記の場合、審査中であればIDS(Information Disclosure Statement: 情報開示陳述書)でその文献を自己申告すべきですし、審査終了後(特許権取得後)であっても権利活用まで予定しているのであれば、再審査・再発行出願を検討すべきです(詳細は、顧問弁理士さんに確認してください)。
対策案は?(証拠隠滅は絶対NG)
ここまで読んで、米国で訴訟になっても、メールを削除して証拠隠滅すれば良いじゃない、と考える方もいらっしゃるかと思いますが、それはやめた方が良いです。
悪事はいつかバレます。
該当メールを削除しても、他の証拠(例えば、一連のメールの流れから、あるはずのメールが無い等)からデータの復元を命じられることでしょう。
そして、その悪事がバレた際には、強烈なペナルティ(金銭面や刑事罰)が課されてしまいます。
証拠隠滅は絶対にやめましょう。
米国でのビジネスがある・今後予定している方々は、上記のように不利な状況にならないように、社内メールといえども、
自社に不利になるような記載(他社特許権を侵害している/自社特許は無効の可能性が高い、等)は避ける
ように普段から注意するべきです。
とはいえ、自社製品と非常に関連性の高い他社特許が見つかった場合等、どうしても社内で情報共有したいこともあると思いますが、そういった場合でも直接的な表現は極力回避すべきです。
例えば、「調査の結果、米国特許XXXXXXXX号の詳細は今後、要確認」といったところでしょうか(※この表現なら絶対安全安心という保証はありません)。
米国でビジネス展開中、または予定の方は、上記の注意点を認識して、リスクを少しでも小さくしておいていただければと思います。